春さんのひとりごと
<ベトナム人と合気道>
先日ふとしたことから、合気道の道場を見学に行く機会がありました。その道場は市内の中心部から少し離れた場所にありましたが、夕方の時間から始まり、5時から9時までの2回転のクラスで、みんなが合気道の練習をしています。
私が夕方にそこに着いた時には、もうすでに練習が始まっていて、年齢で言えば40才代から、10代までの人たち約30人ほどの練習生がビニールの畳の上で熱心に合気道を学んでいました。
じっとしていても玉のような汗が流れてくるような暑さの中で、みんなが2人1組になって相手を倒したり、倒されたりと、真剣にやっているその姿を見ていると、ここは本当にベトナムなのだろうかと一瞬思ったほどです。
実はここベトナムでは、合気道という武術は「テコンドー」や「柔道」などと比べて、習っている人の数ははるかに少ないのです。それでも今サイゴンには15の道場があり、約2,000人の道場生がいるし、サイゴン以外にも全国に9つの道場があり、約500人の人たちが合気道を学んでいるといいます。その日私が訪ねた道場には75人の道場生がいるとそこの人が教えてくれました。
そこには私も知っているベトナム人女性の知人がいまして、何と彼女は合気道を始めてからすでに10年になろうとしています。練習の合間に私に挨拶する時の笑顔は大変明るくて、こちらまで愉快にさせてくれます。
彼女の名前はYen(イエン)さんといい、40代初めくらいの年齢で、黒帯の腕前です。彼女は日本語も達者で、以前は日本語学校の先生もしていましたが、今は旅行会社で働いています。
彼女に「なぜ合気道を習おうとしたんですか?」と聞くと、「その頃自分は体が弱くて、毎日病気がちで健康にいいものが何かないかな?」といつも関心を持っていた時に、たまたま新聞に合気道の広告が載っていたのです。
また私の知り合いにも合気道をやっている人がいて、その人に聞くと、「合気道は健康にも、護身にも、大変すばらしい武道だよ」と言うので、(とにかくその門を叩いて見よう。いやだったら一ヶ月で止めればいいから・・・)と自分に言い聞かせて今まで来たけど、「気が付いたらもう10年近くになろうとしています」と、彼女は笑いながら話してくれました。
Yenさんはこの合気道を習っている人達の中では、年配のほうになり、「自分よりもまだ若い人たちが必死に汗を流して頑張っていますよ。私もこの武道をもっともっとベトナムの人たちに広めたいのです」と、目を輝かせながら話してくれました。
Yenさんがそう話している後ろで、みんなが練習している光景を見ていると、日本で生まれた合気道という武道が、今ここでこうして異国の地で着実に根付いて来ていること。そしてそれを日本人以外の地元の人たちが、さらにまた大きく枝や葉を広げた大樹に育てていこう としている姿を見て、たいへん嬉しく思ったことでした。
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