アオザイ通信
【2004年9月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

<Tuan(トュアン)さんの憂鬱 >

  Tuan(トュアン)さんは今カンザーでエビの養殖を仕事としています。彼は毎日ホーチミンから、バイクで片道50キロの距離を往復しています。彼のエビ池には、昨年ツアーの団体と一緒に訪れたことがありました。その時には7000平方メートルの広さのエビ池でエビを養殖していました。

  そのTuanさんと最近たまたま会うことになり、お茶を飲みながらいろいろと話しをしました。最初は楽しく話しをしていましたが、しばらくするとだんだん彼の顔が憂鬱な顔になって来ました。私も不審に思い「どうしたの?」と聞くと、「前から始めたエビ池の養殖が、最近
うまくいかなくなって来たんだ」という答えでした。

  さらには「最近自分の知り合いで、エビ養殖をしている友人も破産してしまったよー」というではありませんか。「その原因は何なの?」と聞くと、「以前よりもエビの値段が下がって来たから・・・」という返事でした。さらには大きい原因として、@エビのエサ代が上がったAエビの病気を防ぐための薬代が高いBこのカンザーでも最近エビ池をつくる人が急に増えてきたなどなど・・・。

  従って今は利益が少ない状態なので、エビ池を造るに当たって投下した資本を回収出来ないし、まだ少し残っている借金の返済がなかなか終らないでいるような現在の状況なんだといいます。そういうことを話している時の彼の表情は、(これからどうしたものか・・・)と
真剣に悩んでいる顔つきでした。

  確かに今のカンザー地区を車で通過する時に道路側から見るだけでも、以前とはくらべものにならないくらいエビ池の造成が現在も進んでいます。今までそこに生えていたニツパヤシを切り、マングローブを伐採して、その跡地にエビ池を造成している光景が毎年・毎年増えているのです。

  農業や漁業しかないこの貧しいカンザーの田舎の人たちにとって、実際にエビ養殖の仕事は、現金収入を手に入れる手段としては短期間でそれが実現出来る大変魅力的な仕事なのです。そのエビ池をつくるには大きい投資金が要りますが、それも1・2年で回収出来るといいます。

  しかし今の状況は投資金の回収どころか、エサ代と薬代にも追い付かないくらいエビの値段が下がって来ているので「これからどうしようかな?」と、真剣に悩んでいるんだという彼の答えでした。最近は「早く見切りをつけて、別の仕事でも探したしたほうがいいかな?」
と、今は毎日そんなことを考えていると言っています。

  そういう彼の悩みを聞いても、こればかりは「頑張れよ!」と言うくらいしか私は励ましが出来ませんでしたが、どうやらカンザーに限らず、今多くのエビ池養殖の奨励によって、エビの大量生産の飽和状態がこのベトナムで起きつつあるのか、あるいは今エビを生産してい
る東南アジア全域でそういう現象が起きているのか、あるいはこの時期の一時的な現象なのか、Tuanさんの憂鬱がもうすぐ消える日がいつ来るのかは良く分かりません。

春さんは1997年春よりホーチミンに駐在しています。今ではすっかり現地の人となって、見分けもつかなくなっています。春さんに質問や相談があればメールをお送りください。
info@te-campus.com ※件名を「春さんに質問!」にしてくださいね。




「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。

■ ■ 今月のニュース 「 8月10日を「枯葉剤被災者の日」に決定 」 ■ ■ 

ベトナム政府は、これから毎年「8月10日」を「枯葉剤被災者の日」 にすることを決定しました。

「米軍がまき散らした枯葉剤のすさまじい後遺症は、ベトナム全人民を今も苦しめている」。10日、ハノイで開かれた「枯葉剤被災者の日」の式典で、被災者協会の副会長はこう述べました。

  「8月10日」が「被災者の日」とされたのは、1961年のこの日、米軍が初めて、発がん性物質ダイオキシンを含んだ枯葉剤をベトナム中部高原地帯に散布したからです。それからも、米軍は1971年まで枯れ葉剤をまき続け、その総量は約8000万リットルに達したといいます。

  またこの8月10日には、ベトナム赤十字会の代表者たちが、ハノイ市郊外にある「枯葉剤被災者救済施設・平和の村」の子供たちにプレゼントを渡しました。またハノイ市の友好団体の連合会はミーティ ングを行い、今後「枯葉剤被災者」のために継続して義捐金を集める活動を行うことにしました。

  これは今も枯葉剤の後遺症で苦しんでいる子供たちのために、持続的に援助の手を差し伸べたいという有志の方々の意志を尊重する目的で行うものです。また7月末に日本とベトナムの歌手のチャリティーコンサートが開催され、この時の義捐金800万ドン(約560万円)が枯葉剤被災者のために寄付されました。


(解説)
  ベトナム戦争中に米軍が大量散布した枯葉剤の被害者を救済しようという動きが、今ベトナムで高まっています。枯葉剤によって不治の病に伏しているとされる国民は、今なお優に100万人を超えるといいます。また遺伝による奇形児の出産もまだまだ続いています。

  今まではこういう「枯葉剤被災者」に対して何の手だても打ち出して来なかったベトナム政府が、今年からようやく重い腰を上げて救済に乗り出すことになりました。ベトナム政府はこの枯葉剤被災者であれ、路上で生活しているストリート・チルドレンであれ、政府自らは今まで何らの
対策も、援助も、保護もしてこなかったのです。

  すべてこれらの保護・支援をしているのはベトナム国内の民間の支援団体や外国の援助団体です。それだけに今まで枯葉剤の後遺症で苦しんで来た被災者には、明るい光りが見えて来たと言えるでしょう。

◆枯れ葉剤=米軍がベトナム戦争中にゲリラが潜む森林に散布した除草剤の一種。強い毒性を持つダイオキシンが不純物として含まれている。


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