春さんのひとりごと
<Tram(チャム)さんの日本留学>
ベトナム人のTramさんは17歳で、今高校2年生です。彼女は9歳から英語を学び始めて、今までずっと続けて来ました。そして今年ベトナムで行われたTOEFLの試験で、見事613点を獲得しました。もちろんこの点数はベトナムの高校生の中では傑出した高得点で、政府 から全国でただ2人だけ金メダルをもらいました。もう1人はハノイの男子生徒だったそうです。
そしてそのご褒美として、日本政府から奨学金をもらって今年から一年間日本のS県に留学することが許可されました。この制度は毎年恒例の行事として実施されているそうで、今年はハノイからその男子高校生が一人と、ホーチミンからは彼女がただ一人の計2名が留学することになったそうです。ベトナムを去って日本に行くのは8月の末です。
しかしご褒美に日本に行けると知っても、日本語など今まで何の勉強もしていないしあまり時間もないので、最初は途方に暮れたそうですが、やはり英語の勉強を通して鍛えた根性が据わっていたのでしょう。5月半ばからベトナム人の日本語学校の先生を毎日自宅に呼んで、ベトナム人の先生と2人だけの、日本語速習の猛特訓が始まりました。
そしてTramさんがひらがな・カタカナ・やさしい漢字と、基礎的な文法を習い終えた一ヶ月後、「日本語の会話の練習と、実際の日本人の発音に慣れるには、日本に行く前の残りの2ヶ月で本当の日本人と会話の練習を積んだほうが良い」という理由から、そのベトナム人の先生から依頼が私にあり、私も「いいですよ」と気軽に引き受けました。
そして6月の初旬にベトナム人の先生から紹介されて初めて会って、彼女のこの1ヶ月間の日本語の上達ぶりには驚きました。ひらがな・カタカナはもちろんすべて覚えていて、漢字も「学校」や「新聞」や「銀行」など頻度の高い2字熟語の100語ほどは、音読み・訓読みも含めてほぼ完全に覚えているではありませんか。これがわずかまだ日本語を習い初めて一ヶ月目とはとうてい信じられません。「やはり語学の才能というのはあるんだなー」と、ひとり感心したことでした。
しかしこの限られた2ヶ月間の中で今Tramさんがやるべきことは、正しい発音を覚え、いろんな文例を頭に叩き込み、豊富な語彙を増やし、会話の練習を何回も繰り返すことを優先にしていくしかなく、今彼女は夏休みということもあり、Tramさん自身が友人との遊びもすべて断り、あまり外にも出ずに自宅で猛勉強している様子が伺えました。
現実は日本に行ってから学ぶ日本語がまた山のように出て来ることでしょうが、頑張り屋の彼女なら習得していくのもさぞ早いことでしょう。事実日本へ留学した後は日本の普通の高校に通い、日本の高校生と同じ教科の授業を日本語で受けることになっているといいますから、不安な気持ちもさぞあるだろうにそれを全然外に出さないその気丈さには感心します。
Tramさんに「将来はどんな仕事をしたいですか?」と、日本語で聞くと少し考えて、「ガイコウです」と日本語で答えました。「外交官」になるのが彼女の夢だそうです。今月7月3日、たまたま日本の川口外務大臣がベトナムに来ていましたが、Tramさんも得意の英語や、もしかしたらその英語以上に得意になるかもしれない日本語で、将来は世界を飛び回っている仕事をしているのかもしれません。
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