春さんのひとりごと
< 教え子・Fさんの結婚式>
私がベトナムに来た最初の頃に日本語を教えていた生徒・Fさんが結婚式を挙げることになり、当日に私と女房と子供と、浅野さんの4人でサイゴン郊外のビエンホア地区まで行って来ました。ビエンホアはサイゴンから約1時間くらい離れたところにある地区で、日本企業や外国の企業が数多く誘致されている工業地区です。
Fさんはその当時まだ20歳の大学生で、その友人2人と一緒に日本語を教えていました。その時は3人ともまだ日本語を習って3ヶ月目くらいで、最初は片言の日常会話からスタートしました。3人ともまだ若かったので、みんな驚くような早さでみるみるうちに日本語が上達して行き、大学卒業後は3人とも日本企業に関連のある仕事に就くことが出来ました。
3人に日本語を教えて1年経ったころ、浅野さんのNGO団体・アクトマンが企画し、ベトナムのカンザーで実現させた3人の有名な日本人歌手のコンサートにも、この3人が無料で通訳やガイドなどのボランテイアを引き受けてくれました。
その時日本からは、喜納昌吉さん・加藤登紀子さん・新井英一さんの3人が来られましたが、一人一人にベトナム語の出来る日本人と日本語の出来るベトナム人を付けましたが、Fさんには加藤さんのほうのお世話をして頂きました。
それから早7年が過ぎ、3人ともそれぞれ郊外に住んでいて仕事も忙しいようなので会うこともありませんでした。また他の2人も2年前にすでに結婚していて、今は子供さんもいるということでした。その3人の中では最後に結婚することになったFさんでした。改めて歳月の早さを感じさせます。
彼女が事前に持って来た結婚式の招待状に書いてある時間は昼の11時です。サイゴンではこういう場合、式自体が始まるのは普通1時間から1時間半遅れて、12時から12時半の間です。
たとえもし時間通り行っても、出席者はまだ1割も来ていません。
そして90%くらいの参加者がようやく埋まるのが、実に1時間以上遅れてからなのです。
それで今回も私たちは、サイゴン市内を10時半頃出ました。そして1時間くらいして11時半過ぎに式場に到着しました。式場はレストランやホテルの中ではなくて、教会を借り切ってあり、教会の中と外に、大量のテーブルと椅子がセットされていました。外は陽が射さないように上からテントを張ってありましたが、もちろんクーラーなどはないので外の暑い空気がそのまま流れて来ます。
私たちが到着して入口のほうに歩いて行くと、本来お客さんを出迎えるためにいつもはそこ立っている新郎・新婦がいません。出席者もほとんどが来ていて、中には食べ終わって帰ってしまっているテーブルまであるではありませんか。しばらくしてすぐ新婦の友人の2人が私たちを見つけてくれて席まで案内してくれました。
我々が座った場所は教会の建物の中ではなくて、外のアスファルトの中をテントで張って区切った場所にあるテーブルでした。席に座るなりその友人が、「来るのが大変遅いですよ」と言いましたが、「サイゴンではいつも1時間以上遅れるので、今日もそうだと思っていたんだ」と釈明すると、「このビエンホア地区では、結婚式は時間通り始まるんですよ」と言うこと。浅野さんと2人で(それならそうと、事前に言ってくれればいいものを・・・)と話したことでした。
そして教会の中のほうを見やると、新郎・新婦がグラスを持って各テーブルを回っています。しかしこの教会にセットしてあるテーブルの数は驚くような数です。その友人に聞くと、70テーブルはあるとのこと。1テーブルが10人着席する予定ですから、単純に計算しても700人。そのうち実際来ていたのは9割くらいでしょうけれど、それでもものすごい人数です。
新郎・新婦が各テーブルに挨拶する儀式が続くなか、しばらくしてようやくFさんが私たちが着席しているテーブルに来てくれました。
2人がテーブルに来たら、みんなで乾杯の音頭と、写真撮影をするのが慣わしです。ここで6年ぶりにようやく彼女と再会しました。
しかし最初見た時には別人かと思いました。
化粧をしていたこともありますが、当時の大学生の面影はすっかり消えていて、本当に大人びた女性になっていました。考えてみればそれも当然で、もう少しで彼女も30歳に近づこうとしているのですから。
彼女はこれからもまだまだテーブルを回ったり、友人との会話で忙しいので、あまり長い話しは出来ませんでした。また私たちは遅く来たために食事自体が出て来るのも遅くなり、回りを見るともう帰り支度を始めているテーブルもあります。
私たちが食べている場所は教会の外だということもあり、回りはすでに食べ終わった人たちが食い散らかした食べ物のカスや、食事の最中に使用した紙やおしぼりの袋やタバコの吸殻や空き缶などが、山のようなゴミになって散らかっています。さらには私たちの回りのテーブルはドンドン片付けられてしまし、ますますテーブル下に落ちているゴミが露わになって来ます。何かゴミ箱の中で食事させられているような気持ちになってきました。
しかし可笑しかったのは、この結婚式用の食事を運んで来た仕出し屋の若い男の子達が、客がまだ飲んでいないで置いてあるビールをガンガンと飲み、まだお客がさして手を付けないで残した料理をバンバンと食べていたことです。そして彼等はそれがあらかた終ると、我々のほうのテーブルを見て(早く帰ってくれないかなあ〜)と恨めしい表情でじっと見ていますので、2時頃我々もボチボチと帰ることにしました。
このFさんが結婚した相手はアメリカに住んでいるベトナム人で、結婚式の後すぐテキサスに行くそうですが、幸せな家庭を築いてほしいものだと思います。
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