アオザイ通信
【2006年6月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

<物成りの豊かな国>
ベトナムという国が、今も世界の中ではまだまだ経済的には貧しいレベルに位置しているにもかかわらず、一部の日本人には「豊かな国」だというイメージがあるのは、その「物成りの豊かさ」にあると言えるでしょうか。

何しろ日本では一年に一回しか米は収穫出来ないのに、メコンデルタ地方では年に3回も米が獲れるのですから。さらにベトナム全土では、平均して1年に2回は獲れる地方が大部分です。

以前南部の田舎を訪れた時に、田植えをしているその田んぼのすぐ横で稲刈りをしている光景を見たこともありました。日本ではまず見ることのないその光景をしばらくボーッと見ていましたが、その時に「ベトナムという国は、何と自然条件に恵まれた環境にある国だろうか」と感じました。そしてこのことはやはり、果物においても事実であることを今回改めて実感しました。

先日日本語を教えている研修生から、「先生、今度私の田舎に友人たちと一緒に遊びに来ませんか」という誘いがありました。「君の田舎には何があるの?」と聞くと、「両親が広い果樹園を持っています」という返事でした。

「果樹園・・・」と聞いて私が想像したのは、以前カンザーでよく見たマンゴーの畑や、北部で見かけた竜眼が枝にたわわに実っている光景でした。そういうのは今まで何回も見ていたので、「いやいいよ」と丁重に断ろうかと口を開こうとした時に、その研修生が「実家の果樹園には今の時期ドリアンがたくさん実っていますよ」と続けました。

「ドリアン・・・!」

私自身も今までにベトナムの畑に成っている果実の大部分は見ているのですが、ドリアンが実を付けているのだけは今だに見たことがないのです。

それで、「行く。行きますよ!」と喜んでその好意を受けました。また私は「ベトナムの良さは、人も自然も田舎にある」と思っていますので、時にこうして田舎の空気を吸うのも楽しみの一つなのです。

その研修生の果樹園のある田舎はLong Khanh(ロン カーン)という名前で、ハノイに向かう国道一号線の通過地点にあり、サイゴンから約3時間の距離にあります。そして行く当日になって分かったのですが、この時参加した研修生達は何と約30名もいました。

朝7時にサイゴンをバイクで出発して、10時半頃にその研修生の両親の果樹園に到着しました。そして私はベトナムに来て以来初めて、そこの果樹園で念願の「ドリアンが木に実を付けている光景」を目にする事が出来ました。これを見る前に私が事前に想像していたのは、ジャックフルーツのように幹からニョキッと実がぶら下がっている光景でしたが、やはりドリアンも想像通りでした。

最初私がベトナムに来た時に、大きいジャックフルーツの実が枝からではなく、大・小の幹からぶら下がっている光景には大変驚きもし、ユーモアすら感じました。ミカンや柿やりんごなど、日本で見る果物で、枝からでなく幹から実を付けている果物があるでしょうか。

それがここベトナムのジャックフルーツとドリアンは幹から実を付けて、悠然とぶら下がっているのでした。良く考えると、あれだけの重い重量の果実ですから、枝から果実が出て支えきれるはずがありません。

さてその果樹園にバイクを停めて、私はしばらく園内を歩きました。
ここにあるドリアンの木は後で聞くと10年くらい経っているといいます。ここのドリアンの木の高さは、15〜20mくらいの高さが多いです。

ドリアンの木自体は日本の樫の木のような葉っぱを付けています。
その木の幹から、あのするどい突起を無数にその果実の表面に持った、ユニークなドリアンの実がぶら下がっています。幹からドリアンの果実を支えている軸は、細いのでも鉛筆くらい、太いのでは大人の人指し指ほどのものもあります。

「この園内は全体どれくらいの面積があるのだろうか?」と見回しました。しかしここにある木はその本数も多く、樹高も高いので一体どれくらいの広さがあるのか見ただけではよく分かりません。それでその研修生の父親にいろいろ聞くことにしました。

彼は今56歳で、10年間ここで果樹園を経営しています。私たちが今いるこの果樹園は2haで、これ以外にも後2つ有り、全部で7haの果樹園を経営しているということでした。研修生の父親には主にドリアンについていろいろな質問をしました。

日本では「桃・栗3年」といいますが、

[1] ジャックフルーツは植えてから3年で、ドリアンは4年で実を付ける。
[2] ジャックフルーツは1年中実が成るが、ドリアンは1年に1回しか実を付けない。
[3] ドリアンが実を付けるのは、5・6・7月である。
[4] 花が咲いてから、3ヶ月で食べられるまでに成長する。
[5] 今ここでは普通のドリアンと、Sau Ri(サウリー)という2種類を栽培している。
[6] 普通のドリアンは売る時に、10,000ドン(70円)/1kg。Sau Ri (サウリー)は20,000ドン(140円)/1kg.。
[7] ジャックフルーツは人間が実を採取するが、ドリアンは果実が熟して自然に実が大地に落下するのを待つ。
[8] 風で落ちることが多いが、ドリアンの実が落ちるのも夜が多い。
[9] ドリアンには1年に4回肥料を与える。

という父親の答えでした。

しかしこの果樹園には、今一体何種類の果物が実を付けているのでしょうか。ドリアン・ジャックフルーツ・マンゴー・マンゴスチン・パパイヤ・ランブータン・カシュ−ナッツ・バナナ・マン・セリー・コーヒー・パイナップル・ザボン・ドラゴンフルーツ・ココナッツなどの果実(実はこれ以外にもまだあと3種類くらいあるのですが、日本にないので日本語に訳しようがないのです)が、いま目の前に同時間帯に実を付けているのでした。さらには胡椒まで栽培されていました。

そして実際に籠を持って園内を10分くらい歩くだけで、籠一杯の果実が収穫出来るのでした。果たして日本でこのように同じ土地に、これだけ違う果樹を栽培するということが想像出来るでしょうか。それがここベトナムの農園では、目の前のバナナをもぎとると、またそのすぐ横でマンゴーやランブータンを獲ることが出来るのです。

さて今回の念願のドリアンは6月からが一番熟れるということで、今回は少し味わっただけでした。しかしそれでも目の前の果樹園から様々なベトナムの果実のご馳走のもてなしを次々と出された時には、ベトナムの大地の「物成りの豊かさ」を自分の目と舌で改めて実感させられたことでした。





「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。

■ 今月のニュース 「日本はもっと外国人労働者を受け入れる必要がある」■
5月末に外国人が日本に入国するにあたっての改革の草案が法務局より提出された。今回の法務局の発表では、今日本で働いている外国人労働者の総数を少なくとも2倍に増やすように許可する必要があるという。

そして今能力でいえば中程度の外国人労働者を受け入れている期間中でも、日本語能力の高い人たちを優先すべきである。何故なら大した技能がなくても日本に派遣された労働者が、最初に働くことになっていた仕事場から逃亡し、最後は非合法の活動に手を染めている者もいるからである。

今回の法務局から提出された草案によれば、将来の外国人労働者の数を日本の人口の3%(127万人)にまで増やすべきであるという。2005年までの総合計では、日本の人口に占める外国人労働者の割合はわずか1.2%を占めるにすぎない。

法務省職員のナカイ・チホ氏によると 出生率の極端な低下が続いている今のような状況だと、今後外国人労働者を受け入れないと日本の社会は上手く機能しなくなるだろうという。特に昨年より日本の人口が減少に転じたことは、多くの人たちが日本経済や将来の社会保障に悪い影響を与えるのではないかと心配している。

(解説)
「今の日本と今のベトナムの明らかに違う点を一つ挙げよ」と言われたら、「田舎に子供が多いか、少ないかだ」という点を、私は挙げたいと思います。もちろん田舎に子供が多いのがベトナム、少ないのが日本です。

先日も日本の新聞には日本の出生率が1.25になったという記事がありましたが、ベトナムは都会といわず田舎といわず、下校時間になると校門から涌いて出て来るように、多くの子供たちが路上に元気に飛び出してきますね。

以前ベトナム北部のほうの田舎に仕事で行った時には、まだ日本人が珍しいのか、道路にびっくりするくらい多くの子供たちが出て来た事もありました。しかし今の日本では、田舎に行ってもまずこういう光景を見ることは出来ないでしょう。

先月私が日本に帰った時にも、私の田舎には私の子供(3歳半)と同じくらいの年齢の子は一人もいませんでした。異年齢の子供たちが回りにたくさんいれば、喜んでその中に参加して遊ぶのでしょうが本当に誰もいませんでした。

たまたま5月の連休に、同じ田舎の実家に帰って来る一組みの夫婦の子供がいまして、その子は2歳だったので毎日一緒に楽しく遊ばせてもらっていました。しかしそれ以外の日は誰も遊ぶ相手がいないので、毎日朝から夕方まで2匹の犬の首輪にヒモを付けて自分で引っ張ったり、犬に引きずられながらして、夕方まで泥ん子になりながら遊んでいました。

日本の友人たちに聞いても、今小学校の一クラスの人数は激減しているようで、私たちの世代の時には一年生から6年生まで、一クラスに30〜40人くらいはいたのが、今は何と10数人くらいになっているといいます。

ですからこれから若い人たちが少なくなるということは、日本国内では日本人の労働者が不足する近未来が確実に到来するということです。

そういう時代背景を考えた時には、この記事にあるように外国人労働者が日本国内で働いている光景が珍しいものではなくなるのも、さほど遠くない頃になる事でしょう。

しかしいずれにせよ、子供の出生数が少なくなっていく国というのは、その原因や理由はどうであれ、確かにその国から活力も無くなっていくのはどうも事実のような気がします。


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