春さんのひとりごと
<物成りの豊かな国>
ベトナムという国が、今も世界の中ではまだまだ経済的には貧しいレベルに位置しているにもかかわらず、一部の日本人には「豊かな国」だというイメージがあるのは、その「物成りの豊かさ」にあると言えるでしょうか。
何しろ日本では一年に一回しか米は収穫出来ないのに、メコンデルタ地方では年に3回も米が獲れるのですから。さらにベトナム全土では、平均して1年に2回は獲れる地方が大部分です。
以前南部の田舎を訪れた時に、田植えをしているその田んぼのすぐ横で稲刈りをしている光景を見たこともありました。日本ではまず見ることのないその光景をしばらくボーッと見ていましたが、その時に「ベトナムという国は、何と自然条件に恵まれた環境にある国だろうか」と感じました。そしてこのことはやはり、果物においても事実であることを今回改めて実感しました。
先日日本語を教えている研修生から、「先生、今度私の田舎に友人たちと一緒に遊びに来ませんか」という誘いがありました。「君の田舎には何があるの?」と聞くと、「両親が広い果樹園を持っています」という返事でした。
「果樹園・・・」と聞いて私が想像したのは、以前カンザーでよく見たマンゴーの畑や、北部で見かけた竜眼が枝にたわわに実っている光景でした。そういうのは今まで何回も見ていたので、「いやいいよ」と丁重に断ろうかと口を開こうとした時に、その研修生が「実家の果樹園には今の時期ドリアンがたくさん実っていますよ」と続けました。
「ドリアン・・・!」
私自身も今までにベトナムの畑に成っている果実の大部分は見ているのですが、ドリアンが実を付けているのだけは今だに見たことがないのです。
それで、「行く。行きますよ!」と喜んでその好意を受けました。また私は「ベトナムの良さは、人も自然も田舎にある」と思っていますので、時にこうして田舎の空気を吸うのも楽しみの一つなのです。
その研修生の果樹園のある田舎はLong Khanh(ロン カーン)という名前で、ハノイに向かう国道一号線の通過地点にあり、サイゴンから約3時間の距離にあります。そして行く当日になって分かったのですが、この時参加した研修生達は何と約30名もいました。
朝7時にサイゴンをバイクで出発して、10時半頃にその研修生の両親の果樹園に到着しました。そして私はベトナムに来て以来初めて、そこの果樹園で念願の「ドリアンが木に実を付けている光景」を目にする事が出来ました。これを見る前に私が事前に想像していたのは、ジャックフルーツのように幹からニョキッと実がぶら下がっている光景でしたが、やはりドリアンも想像通りでした。
最初私がベトナムに来た時に、大きいジャックフルーツの実が枝からではなく、大・小の幹からぶら下がっている光景には大変驚きもし、ユーモアすら感じました。ミカンや柿やりんごなど、日本で見る果物で、枝からでなく幹から実を付けている果物があるでしょうか。
それがここベトナムのジャックフルーツとドリアンは幹から実を付けて、悠然とぶら下がっているのでした。良く考えると、あれだけの重い重量の果実ですから、枝から果実が出て支えきれるはずがありません。
さてその果樹園にバイクを停めて、私はしばらく園内を歩きました。
ここにあるドリアンの木は後で聞くと10年くらい経っているといいます。ここのドリアンの木の高さは、15〜20mくらいの高さが多いです。
ドリアンの木自体は日本の樫の木のような葉っぱを付けています。
その木の幹から、あのするどい突起を無数にその果実の表面に持った、ユニークなドリアンの実がぶら下がっています。幹からドリアンの果実を支えている軸は、細いのでも鉛筆くらい、太いのでは大人の人指し指ほどのものもあります。
「この園内は全体どれくらいの面積があるのだろうか?」と見回しました。しかしここにある木はその本数も多く、樹高も高いので一体どれくらいの広さがあるのか見ただけではよく分かりません。それでその研修生の父親にいろいろ聞くことにしました。
彼は今56歳で、10年間ここで果樹園を経営しています。私たちが今いるこの果樹園は2haで、これ以外にも後2つ有り、全部で7haの果樹園を経営しているということでした。研修生の父親には主にドリアンについていろいろな質問をしました。
日本では「桃・栗3年」といいますが、
[1] |
ジャックフルーツは植えてから3年で、ドリアンは4年で実を付ける。 |
[2] |
ジャックフルーツは1年中実が成るが、ドリアンは1年に1回しか実を付けない。 |
[3] |
ドリアンが実を付けるのは、5・6・7月である。 |
[4] |
花が咲いてから、3ヶ月で食べられるまでに成長する。 |
[5] |
今ここでは普通のドリアンと、Sau Ri(サウリー)という2種類を栽培している。 |
[6] |
普通のドリアンは売る時に、10,000ドン(70円)/1kg。Sau Ri (サウリー)は20,000ドン(140円)/1kg.。 |
[7] |
ジャックフルーツは人間が実を採取するが、ドリアンは果実が熟して自然に実が大地に落下するのを待つ。 |
[8] |
風で落ちることが多いが、ドリアンの実が落ちるのも夜が多い。 |
[9] |
ドリアンには1年に4回肥料を与える。 |
という父親の答えでした。
しかしこの果樹園には、今一体何種類の果物が実を付けているのでしょうか。ドリアン・ジャックフルーツ・マンゴー・マンゴスチン・パパイヤ・ランブータン・カシュ−ナッツ・バナナ・マン・セリー・コーヒー・パイナップル・ザボン・ドラゴンフルーツ・ココナッツなどの果実(実はこれ以外にもまだあと3種類くらいあるのですが、日本にないので日本語に訳しようがないのです)が、いま目の前に同時間帯に実を付けているのでした。さらには胡椒まで栽培されていました。
そして実際に籠を持って園内を10分くらい歩くだけで、籠一杯の果実が収穫出来るのでした。果たして日本でこのように同じ土地に、これだけ違う果樹を栽培するということが想像出来るでしょうか。それがここベトナムの農園では、目の前のバナナをもぎとると、またそのすぐ横でマンゴーやランブータンを獲ることが出来るのです。
さて今回の念願のドリアンは6月からが一番熟れるということで、今回は少し味わっただけでした。しかしそれでも目の前の果樹園から様々なベトナムの果実のご馳走のもてなしを次々と出された時には、ベトナムの大地の「物成りの豊かさ」を自分の目と舌で改めて実感させられたことでした。
|