アオザイ通信
【2008年7月号】

ベトナムの現地駐在員による最新情報をお届けします。

春さんのひとりごと

<ベトナムの少年との出会い、そして別れ>
この春日本へ帰っていた時に、あのフォトジャーナリストの村山さんから一冊の本を頂きました。

この本の出版は、今年の春に彼がベトナムに来た時にも話を聞いていましたので、私もその本が出来上がるのを待ち続けていました。そしてそれがようやく今年の3月に発行されたのでした。そしてその帯には、彼が師と仰ぐ石川文洋さんが推薦の文を寄せていました。

本の題名は「命の絆」です。私はこの本を、日本にいた時にも繰り返し読み、またベトナムにも持って帰って再度読み直しましたが、そのたびに何の罪もない幼い子供が生まれた時から背負った宿命に、深い・深い悲しみを覚えずにはおれませんでした。

村山さんは1998年にベトナムで開かれた、石川文洋さんの写真展で初めてサイゴンを訪れました。それ以来彼のベトナムへの渡航暦は、23回にもなりました。

2004年のサイゴン訪問時には、枯葉剤被災者を支援する署名活動にも積極的に参加し、彼一人で何と約1200人の署名を集めたといいます。さらにまた昨年は彼の枯葉剤被災者を追いかけた写真展が、戦争証跡博物館で約二週間展示されました。

振り返りますと、今回この本を出版した村山さんと私が初めて会ったのは、今から約7年前の2001年のことでした。 それ以来、彼が春や夏にスタディツアーで日本から大学生を連れて来るたびに一諸に食事をしたり、夜遅くまで話したり、一緒にビールを飲んだり、そして時には私も植林ツアーにも同行したりしました。

そういう時に、彼は自分が今ベトナムで追いかけているテーマついて、私に熱心に語ってくれたのでした。そのテーマの範囲の広さは、私から見れば驚くべきものでした。よくぞ一人でそれだけのテーマを追求出来るものだなーと、私自身感心しました。

村山さんはストリートチルドレン、麻薬や貧困、洪水被害、エイズ、ゴミ問題、環境汚染、枯れ葉剤被災者など、今のベトナムが抱えている様々な問題について話してくれました。時には大学生たちも交えて、深夜遅くにまで話が及ぶこともありました。

私は彼と7年ほど付き合って来ましたが、彼が私に話す時のベトナムで追いかけているそのテーマ自体は暗いものであっても、彼が話している時の内容は腹を抱えて笑うようなものが多かったのでした。

また彼の人柄なのでしょうか、彼はそういうふうに努めてみんなを喜ばせる話し方を心がけていました。多情・多感、そして純粋な人というのが、私が彼に抱いた感想です。だからこそ私自身も、今まで彼とこのベトナムで会うたびに、嬉しくなってくるのでした。

私はこの本を読むまでは、彼がベトナムの田舎にまで頻繁に足を運んで、具体的にどんな活動をしていたのか、彼自身もその時に多くのことは私には話さなかったので、今まで彼の活動の詳しいことはさっぱり知らないでいました。

しかしその当時彼が私の前で陽気に振舞いながら話していたその笑顔の裏には、こういう慟哭に近い悲しみを抱えていたのかと、実は私も今回この本を読んで初めて知ったのでした。

この本には、彼が2001年にサイゴン市内の擁護施設で偶然出会った、ある一家の子供たちとの出会いから、その中の男の子・H君との永遠の別れに至るまでが、村山さんの切々たる文章で、まるで抒情詩のように綴られています。

そしてこの本に登場する男の子H君は、お母さんがカンボジアに働きに行っていたときに罹ったエイズという病気に、生まれた時から感染しまっていたのでした。

H君のお母さんは、その病気が原因でわずか三十代で亡くなり、お父さんもまた39歳の若さで亡くなりました。さらには末っ子の三女は、まだ生まれて十ヶ月という幼さで亡くなったのでした。

そしてH君も自分の運命をある日知ることになり、出来るだけ回りの子供たちとの付き合いを避けようとして、彼らと遊ぶことも少なくなりました。

ついにはH君は僅か13歳にしてこの地上世界から消えたのでした。その時の村山さんの慟哭の思いが、この本の行間からほとばしってきます。

ベトナム南部の田舎町から、カンボジアまで出稼ぎに行かざるを得ない、ベトナムが抱えている貧困という冷厳な現実。そして、そこで一家に降り注いだ思いもかけなかった悲劇。誰にも、どこにも怒りを向けられない絶望的な気持ちに打ちのめされている、村山さんの悲痛な叫びがこの本からは聞こえて来ます。

そして実は村山さんはこの万感の悲しみの思いを綴った本を出版するにあたり、この本の発行日と同じ日に合わせて、今の彼の活動をこころから理解してくれている、生涯の伴侶となる女性との籍を入れたのでした。その祝宴のパーティーを、彼はこのベトナムで8月に開くことしているそうです。

村山さんの結婚パーティーというこのめでたい席に、今生きていてくれれば18歳になる、彼が愛情を注いだH君が来てくれていれば、どれだけ喜んでくれたことでしょう。





「BAO(バオ)」というのはベトナム語で「新聞」という意味です。
「BAO読んだ?」とみんなが学校で話してくれるのが、ベトナムにいる私が一番嬉しいことです。

■ 今月のニュース <旅に出ても、礼儀正しくあれ> ■
今や私たちが外国に出かけるというのは、その前にカバン一つだけを準備しさえすれば、誰でもが簡単に、気軽に行けるようになった出来事だといえる。

しかしだからこそ、私たちが異国の見知らぬ土地に降り立った時、現地の人たちの目には、私たちの振る舞いや言動が、その国を代表している「移動大使」として映っていることを忘れてはならない。

何故ならば、ある国の旅行者が異国で表わす何気ない態度や言葉遣いが、異国の人にとってはその民族の特性として見られるからである。

そこである国の人たちが外国旅行に行く前に、どんなことに心がければいいのかを、アメリカにある旅行会社がウエブサイト上に紹介してくれている。

この旅行会社は、世界中にある4000以上の格式あるホテルに、良く海外旅行に行く30余りの国々の旅行者の態度や評判をアンケート調査したのだった。

その30余りの国々とは、イギリス、アメリカ、フランス、イタリア、ロシア、カナダ、オランダ、スペイン、ポルトガル、オーストラリア、ニュージーランドなどで、アジアでは日本、中国、インド、タイなどがその対象になっている。

旅行客として世界中でどの国民が礼儀正しいかを、次のような項目で標準的な質問に従って答えてもらう方法を採った。

[1]ホテルの中での従業員への態度はどうか。
[2]ホテル内では、落ち着いた生活態度であるか。
[3]ホテル内で大声を出していないか。
[4]他のお客さんに迷惑をかけていないか。
[5]キチンとした身なりをしているか。
[6]異国の言語や文化や料理に対して、理解と情熱があるか。
[7]異国で提供されるサービスに対して、不平を多く言わないか。
[8]従業員に対して気前が良いか。

・・・などについての回答をもらった結果の答えは、以下のようであった。

◎日本人の観光客が、世界で一番礼儀正しい◎
日本人の旅行客は、世界中の旅行者の中で一番礼儀正しく、親しみやすい。2位はドイツ人とイギリス人で、3位がカナダ人であった。そして8位にはノルウェーが入り、9位にはデンマーク、フィンランドが位置していた。アメリカとタイは11位、イタリアが14位、ロシア18位、下位の3位には、フランス19位、インド20位、そして中国が21位となった。

日本人は礼儀正しい態度や、周囲の人達に対していつもにこやかな表情を心がけていたり、身なりもキチンとしているという理由などで、世界の中でも高い評価を受けた。そして一番高い評価の理由としては、日本人はどんな所に行っても衛生観念のレベルが非常に高いことである。

そして彼ら日本人は、異国の文化や料理や言葉についても、強い関心を持って旅している点が、いろんな国の中でも高い評価を受けている理由である。それが出来得る理由として挙げられるのが、日本では多くの国を旅行するにあたり、様々な種類のガイドブックが発行されていて、その本にはホテルや料理や、簡単なレベルのその国の言葉や、旅先での様々な注意点が詳しく説明されているからだといえる。

ドイツ人やイギリス人も身だしなみはキチンとしている。フランス人とイタリア人は、服装の身だしなみの良さでは評価されている。でもイタリア人とイギリス人は、ホテルの中でも食堂でも、大声を発してうるさいことがある。

世界を旅行している人たちの中でも、特にアメリカ人については、評価が二分するところである。アメリカ人はお金持ちだが、現地の人の間では評判が良くない。誉める評価とけなす評価が分かれている。

彼らは一番多くチップを上げるし、異国の文化や言語やその土地の特産品などに、熱意を持って知ろうと努力するなど、その点は評価されている。

しかし言葉使いがぞんざいで、行動が勝手気ままな点は低い評価になっている。またアメリカ人によく見られる評価の低い点は、うるさいことである。身なりもキチンとしていないし、自分が泊まる部屋がいい部屋でないと、すぐクレームを付ける。この点は、フランス人やドイツ人も同じ傾向がある。

◎アメリカ人の旅行者への注意点◎
今回のこの考察の結果によると、アメリカ人は外国人の目に映る自分達のイメージについて、もっと改善する必要があるとアドバイスしている。

整理整頓・・・・ チェックアウトの時に、ゴミを片付けたり、使ったタオルを元に戻したりして、いろんな物を床の上に投げ捨てないこと。
音量の調節・・・ 同じ国の人たち同士が話す時には、大きな声で笑ったり、大きな声で怒ったり、注意したりして、とにかく大声が出やすい。だからホテルのような場所では大声で話すのではなく、意識して小さい声で話すように音量を調節すること。
冷静さ・・・・・ いろんな国に行けば、いろんな民族の人たちが住んでいて、その文化も国民性も違う。だから自分の国のやりかたに慣れている人たちは、そういう異国で様々なカルチャーショックを体験するが、そういう時に大事なことはいろんな驚くような出来事に出会っても、努めて冷静に振舞うことである。

旅行の専門家のKaryn Thale氏は、アメリカ人の旅行者は旅行に行く前に、運動靴と半ズボンを家に置いておきなさいと忠告している。そしてここが大事な点だが、豊かな国から貧しい国を旅行する時には偏見を捨てることだと強調する。

最近はアメリカ人の旅行者たちも、旅行する前に様々な情報を本やウェブサイトなどによって情報を得ている。だからアメリカ人に対してのこのような評価も、今後変わる可能性は大いにあるだろう。

ここ最近は、ベトナムでも遠い異国へ旅行出来るような裕福な人たちが増えつつある。でも彼らはまだ異国での対応の仕方や、行動や服装上の注意点などについては、しっかりした知識を持っている訳ではない。

もし彼らがベトナム国内でのベトナム人の生活様式のままで、外国に行っても同じように振舞うようなことがあれば、外国でのベトナム人の評判を大きく落とすことになるだろう。事実ベトナム国内では、多くの外国人がベトナム人のマナーの悪さに呆れているのだから。

だから旅行会社などは、ウエブサイトなどを通して今から、彼らベトナム人の旅行客に異国での振舞いの注意点をアドバイスして上げる必要がある。

(解説)
われわれ日本人にとっては何とも好意的な記事ですが、ベトナムでの日本人観光客の評判は、ベトナムの人たちからは好意的な見方が多いですね。

以前は日本人が東南アジアに行くと、ヨーロッパなどでの現地の人たちへの対応と比べて、自分たちを先進国から来たという感覚で横柄に振舞っているような人がいるようなことも聞きましたが、最近のベトナムでそういう光景は私自身はあまり見たことがありません。やはり日本人はベトナムへ行っても、特に年配の人たちは礼儀正しい人たちが多いと、私は個人的に思います。

また標準的な日本人は、自分自身の喜怒哀楽の感情表現を直接的に現わすのを出来るだけ抑えて、慎み深く発言、行動する傾向が強いのですが、こいう感情表現の演出の仕方はいろんな民族によって違うようです。

そして、この「喜怒哀楽をあからさまに表現しないのが日本人の美徳なんだ」という発想を身に付けた日本人のイメージは、外から見ると“日本人はおとなしい人たち”という見方につながります。別の言葉で言えば、あまり争いごとを好まず、事を荒立てるのを避けたがるということです。

こういう価値観は、日本国内においては「美徳」として通用する徳目なのですが、ベトナムや他の異国を旅行する時には、その価値観を共有しない人たちにとっては“日本人は与しやすい、お人好し”と見られますので注意が必要です。

先日私の知人が日本からやって来て、サイゴン市内の五区にあるチョロンという市場までシクロに乗って出かけました。最初乗る前にシクロのおじさんが言った値段は、サイゴン市内からチョロンまでで片道が3万ドン、往復では6万ドン(約370円)でいいということでした。

それで同意してチョロン見物を終えて市内まで帰って、さてシクロから降りると、そのシクロのおじさんは、何と70万ドン(約4400円)という途方もない金額を請求して来たということでした。

そしてそのシクロのおじさんは悪知恵もあり、ホテルの従業員のような誰の加勢も来ないホテルの少し前でその女性をわざと降ろして、その料金を請求して来たということでした。
しかしもしこれがアメリカ人だったら、女性でも「ノー−−!!」という大声を出してそういう法外な請求は断固はねつけたことでしょうが、その知人の方は仕方なく払ってしまったということでした。

ベトナム人の女性などは、街中でも近所でも、(気でも狂ったか?)というくらいの大音量の罵声を張り上げて、隣近所に声がどう聞こえるかなど意に介することもなく、女性同士が口角泡を飛ばしながら大喧嘩をしている光景を時々目にします。

日本人から見ると、(何とハシタない・・・)と眉をひそめそうな光景ですが、ベトナムの人たちはこれに限らず、日本人ほどはあまり「他人の目」を意識することは少ないですね。
普通の日本人は「他人の目」をどうしても気にするので、そういう行動には出ることはあまり少ないでしょう。しかし最近は日本でも、電車の中で「他人の目」を気にせずに化粧する女性が現れたと聞きましたが、私の田舎では私自身が電車にあまり乗らないので、そういう女性はまだ見かけませんでした。

いずれにしても、ベトナムに旅行に来られた旅行者の方々も普段は温厚に、礼儀正しく振舞ってこのベトナムを旅行して頂いて日本人の評判を上げてもらい、しかしながら相手が理不尽な要求をして来た時には、「他人の目」を気にせず断固としてはねつけ、「与しやすい日本人」のイメージを変えていきましょう。

ベトナムでは、店の人の言うがままの値段で値切りもせずに品物を買ったり、相手の言うがままの要求に素直に従うということは全然美徳ではないのですから。



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